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大阪地方裁判所 昭和26年(ヲ)235号 判決

申立人代理人は、「当裁判所が昭和二十五年一月二十七日被申立人債権者、申立人債務者間の当裁判所昭和二十五年(ヨ)第二五号特許権侵害行為仮処分申請事件について発した仮処分決定は、これを取消す。申立費用は被申立人の負担とする。」との判決を求め、その申立の原因として「申立人は、昭和二十五年一月二十七日被申立人の申請にかかる前記仮処分申請事件において、「被申立人から申立人にたいする特許番号第一七九八五八号競技装置の特許権(以下本件特許権という)に基く侵害行為禁止請求の本案訴訟の判決確定に至るまで、申立人はジヤンホーゲーム競技装置をしてはならない。申立人が、大阪市浪速区霞町二丁目四番地温泉劇場二階のジヤンホー設置の場所で使用している前記競技装置の占有を解いて、これを被申立人の委任する執行吏に保管させる。右の各場合に執行吏は、その保管していることを公示するために適当な方法をとらねばならない。」旨の仮処分決定を受け、これに対し申立人は民事訴訟法第七百四十六条による起訴命令を申立て、これに基き同裁判所は、昭和二十六年八月九日被申立人にたいし、命令送達の日から七日間以内に本案訴訟を提起すべき旨の命令を発し、この命令は、同年九月三日被申立人に送達されたにかかわらず被申立人は、右期間を徒過し未だ本案訴訟を提起しないので前記仮処分決定の取消を求めるため本申立におよんだ。と述べ、被申立人の主張にたいし「昭和二十五年二月十日被申立人が訴外株式会社ビンゴコーホレーシヨン・オブ・ジヤパンにたいし、本件特許権を譲渡し、同年三月二十五日その旨の登録を受けたこと、右訴外会社が昭和二十六年九月十日申立人を被告として大阪地方裁判所に特許権侵害行為禁止等請求の訴を提起し、また被申立人が申立人を被告として同裁判所に特許権侵害に因る損害賠償請求の訴を提起したこと、訴外会社が本件仮処分について承継執行文の付与を受け、昭和二十六年十月五日その執行承継の手続をとつたことは、いずれもこれを認める。しかしながら、次のような理由から右訴の提起はいずれも本件仮処分の本案訴訟と認められないものである。即ち、

(一)  訴外会社の提起した特許権侵害行為禁止等請求の訴について、

(イ)  仮処分決定には特定承継を認むべきではなく、これによる執行文附記は許されないと解すべきである。仮差押命令につき特定承継を認めることについては民事訴訟法第七百四十九条に明文があるが、仮処分にはその旨の規定がなく、同法第七百五十六条において仮処分の命令その他の手続については一般的に仮差押に関する規定を準用しているが、その但書において、「以下数条において差異の生ずるときはこの限にあらず」と規定しているのであつて、本件仮処分のように仮の地位を定める仮処分については、仮差押の特定承継に関する前記の規定は準用されないと解すべきであるから本件特許権譲受人である訴外会社において仮処分の必要があれば新たに仮処分申請をすべきものであつて、この場合裁判所は改めて申請当時の諸種の事情を勘案し必要且十分の救済を与えるのであつて、前者の時代の仮処分を後者に承継せしめることはその必要がなく、このように解しても、被保全権利の譲渡により従前の仮処分の執行が当然停止されるものではなく、又新しい仮処分は前の仮処分の内容に抵触しないかぎり同一物にたいしてもこれを執行することができるのであるから、被保全権利の譲受人にはなんら痛痒を感じないのに反し、仮処分の承継が許されると解せんか債務者は債権者の一方的な手続によりなんら異議を述べる機会もなく、仮処分執行の継続を認めねばならないことになり極めて不合理であつて、単に訴訟経済上の利害ですまされないことが多いのであるから、仮処分について承継を許すことはその本質に反し、却つて弊害がある。そして右法理は、特定承継人は補助参加をなすは格別自己の名を以て他人の保全訴訟に介入することは許されないとせられる(昭和十三年四月二十日大審院判例参照)こととその考え方を一にするものである。又仮処分判決の既判力のおよぶ範囲は、一般判決のそれと同一に論じ得るが、仮処分が決定を以てなされた場合には確定力を生じ得ないから、既判力の問題も生じ得ないこと勿論である。特に仮処分決定は仮処分申請の主観的客観的すべての条件を勘案して発せられるものであるから、判決の場合のようにみだりに承継を認むべきではなく、民事訴訟法第二百七条が決定について性質に反せざるかぎり判決に関する規定を準用しているのはこの趣旨にほかならない。

(ロ)  およそ保全処分にたいする不服申立制度としては異議、事情変更による取消および特別事情による取消の三種が最も多く利用されているのであるが、この三者は、本来同一性格の不服申立で、公平の立場から劣位の債務者保護のために認められたものであつて、異議と事情変更による取消とは、その取消原因発生時期は違つていても、少くとも取消当時においては保全処分が違法であるとする点において共通であり、特別事情とは、保証の提供を条件として保全命令自体を違法ならしめる事由と解し得るから、これを異議若しくは、事情変更による取消と異質的取扱をする必要はない。そして保全命令の存続ないし承継を許すべきか否かの問題も、従来の保全命令が違法として取消されるかどうかの問題であるから、これが許否については、そのときにおいて、前記いずれかの不服申立方法により、保全処分取消の判決があつたかどうかという事実もまた十分考慮されねばならないのであるところ、本件仮処分決定については昭和二十五年十二月二十七日当裁判所において当裁判所昭和二十五年(ヲ)第一九号特別事情による仮処分取消申立事件においてこれを取消す旨の判決があり、この判決は、昭和二十六年三月三日確定しており、申立人において保証の提供さえすれば、いつでも本件仮処分を取消し得る程度に違法なものとする判決が確定しているのであるから、その後、訴外会社が承継執行文の付与を得てこれが執行を継続する旨の手続をとつたとしてもその承継は無効である。

(ハ)  仮に訴外会社の本件仮処分の承継が認められるとしてもそれは仮処分の執行を為し得る地位を承継人に与えるだけであり仮処分債権者と本案訴訟の原告とは常に一致しなければならないことは、本案訴訟を前提とする仮処分制度上当然であつて、仮処分の本案訴訟は仮処分債権者において提起すべき権利義務をもつものであるから、承継人が自己の名において、本案訴訟を提起し得るものではない。けだし、承継前の仮処分執行による仮処分の債務者の蒙つた損害についての賠償債務は仮処分債務者の同意なき限り当該仮処分を執行した仮処分債権者のみこれを負担すべきであるからである。従つて、いずれにしても訴外会社の提起した前記訴訟は本件仮処分の本案訴訟たる効力はないものといわねばならない。

(二)  被申立人の提起した損害賠償請求の訴について、

前記仮処分命令に表示されているように、本件仮処分によつて保全せられる請求権は特許権に基く侵害行為禁止請求権であるから被申立人にたいする特許権侵害による損害賠償請求の訴は、本件仮処分の本案訴訟ではない。けだし、損害賠償債権は、侵害せられた基本の権利の存在を前提とし、これから派生的に独立したもので、基本の権利に代るものではないからであつて、このことは権利侵害行為禁止の本訴繋属中、権利の譲渡がなされた場合には該本訴はこれを取下げるの外なく、譲渡前に蒙つた権利侵害による損害賠償請求権が、右本訴と併合されていたとしても、この請求権は右の仮処分の被保全権利ではないのであるから、これをもつて右仮処分の本訴と見ることはできないことから考えても明かである。

従つて、いずれの点よりするも、本件仮処分の本案訴訟が提起されたとみることはできないものである。と陳述した。

被申立人代理人は主文と同旨の判決を求め、答弁として、「申立人主張の日に、その主張の仮処分申請事件において、その主張の仮処分決定がなされたこと、昭和二十六年八月九日申立人主張の本案提起命令が発せられ、この命令が同年九月三日被申立人に送達されたことは認めるが、被申立人は、本件仮処分執行後である昭和二十五年二月十日訴外株式会社ビンゴコーホレーシヨン・オブ・ジヤパンに本件特許権を譲渡し、同年三月二十五日この登録を受け、同訴外会社は、昭和二十六年九月十日当裁判所に申立人を被告として特許権侵害行為禁止等請求の本案訴訟を提起し、その後当裁判所において、本件仮処分について承継執行文の付与を受け、仮処分債権者たる地位を承継し、同年十月五日執行承継の手続をしたのであるから、本件仮処分につき本訴不提起を原因とする本件取消の申立は失当である。

およそ、仮処分命令が決定の形式で発せられている場合と雖も、その決定の効力が決定後の訴訟物の承継人におよぶことは、民事訴訟法第二百七条第二百一条によつて明かであり、殊に仮の地位を定める仮処分においては、継続的作為又は不作為を命じ、又は継続的状態を現出するものであるから、その間当事者に地位の承継があればこれを認め、また執行上の地位の承継のため執行文附記を許して、実体上の権利者たる承継人を保護すべきであつて、その必要は、仮差押の場合と異るところがない。故にその承継人が同法第七百五十六条第七百四十九条第一項により、これが承継執行文の付与を受け仮処分執行の承継をなし得ることも当然である。そうでなければ、被保全権利承継の場合、その都度承継人において、あらためて仮処分の申請をしなければならないとすれば、ただに訴訟経済に反するのみでなく、仮処分目的物の消失、状態の変更等もあつて、仮処分の目的を達成し難い場合もあるからである。もし、同条による仮処分について仮差押に関する規定の準用がないとすれば、同法第七百四十六条自体も準用されないことになり、本件申立はそれ自体失当である。また、本件仮処分が昭和二十五年十二月二十七日申立人主張の特別事情による仮処分取消申立事件における判決により取消されこの判決が確定したことは認めるが、特別事情による仮処分の取消においては、被保全請求権の金銭賠償可能の有無仮処分を維持することによつて蒙る債務者の損害と、仮処分を取消すことによつて蒙る債権者の損害との比較考量により取消が左右せられるのであつて、その審理の範囲も仮処分により保全せらるべき実体上の権利の存否および仮処分の必要の有無について判断する必要なく、もつぱら特別事情の有無を判断すべきであり、かつこれを以て足るのであるから特別事情による取消判決があつても、それは仮処分の承継を認めるについて妨げとなるものではない。而して仮処分債権者に承継があつた場合には、その本案訴訟は承継人が提起すべきものであつて、仮処分申請人(債権者)はもはや本案訴訟を提起することができないのである。けだし、そうでないとすれば、承継人は仮処分執行の承継をしながら、その運命を申請人に委ねることになつて不合理であるし、一方仮処分申請人は訴訟物たる権利を喪つているのであるから本案訴訟を提起し得ないことが明かであるからである。

仮に前記訴外会社の提起した訴が本件仮処分の本訴とみられないとしても、被申立人は、昭和二十六年九月十日当裁判所に申立人を被告として、本件特許権侵害による損害賠償請求の訴を提起したから、これは本件仮処分の本案訴訟とみるべきものである。けだし、仮処分当時被申立人は特許権者であり、侵害行為禁止請求の訴を提起すべく予定していたが、その後本件特許権を譲渡したためもはや右訴を提起し得なくなつたので、右譲渡までに、被申立人が申立人の本件特許権侵害により蒙つた損害の賠償を求める訴を提起したのであつて、両者は請求の基礎を同じくするからである。

従つて、いずれにしても本件仮処分の本案訴訟は、既に提起されているのであるから、起訴期間徒過を理由とする申立人の本件申立は失当である。」と陳述した。

三、理  由

申立人が、昭和二十五年一月二十七日被申立人債権者、申立人債務者間の、当裁判所昭和二十五年(ヨ)第二五号特許権侵害行為仮処分申請事件において、申立人主張の仮処分決定を受けたこと、当裁判所が、昭和二十六年八月九日申立人の申立に基き、被申立人にたいし、命令送達の日から七日間内に右仮処分の本案訴訟を提起すべき旨の命令を発し、この命令が同年九月三日被申立人に送達されたこと、昭和二十五年二月十日、被申立人が本件特許権を訴外株式会社ビンゴコーホレーシヨン・オブ・ジヤパンに譲渡し、同年三月二十五日この登録を完了したこと、昭和二十六年九月十日右訴外会社が当裁判所に申立人を被告として、特許権侵害行為禁止等請求の訴を提起し、その後本件仮処分について承継執行文の付与を受け、同年十月五日その執行を承継したことは、いずれも当事者間に争がない。

よつて、右訴外会社の提起した特許権侵害行為禁止等請求の訴が本件仮処分の本案訴訟とみられるかどうかを考えてみよう。およそ仮差押仮処分を許した裁判は、その性質上執行文の付与を要せずして直ちに執行することができるのであるが、ただこれらの裁判があつて後、債権者又は債務者に承継があつた場合には、執行につき承継人は承継執行文の付与をうけることを要するものである。民事訴訟法第七百四十九条第一項は、仮差押につきこのことを定めたものであつて、この規定は同法第七百五十六条によつて仮処分に準用されると解すべきである。申立人は、仮処分につきこの場合の準用を否定するのであるが、一般承継の場合について考えてみれば、その不当なることは一見明瞭であろう。何となれば仮処分訴訟であれ本案訴訟であれ、裁判の効力がこの場合の承継人におよぶことは、多く議論を要しないであろうから、この点を肯定する以上は、更に進んで裁判の効力について一般承継と特定承継とを同視するのは、わが民事訴訟法のとつている立場であることも同法第二百一条、前示第七百四十六条第一項等の規定よりして窺うに難くないであろう。このことは、問題の仮処分が係争物に関するものであると、仮の地位を定めるものであるとによつて異にする理由をみない。従つてまた、仮処分債権者が仮処分執行後に被保全権利を第三者に譲渡した場合には譲受人は承継執行文の付与を受けて、既になされた執行を承継し得るといわなければならない。また、承継執行文付与後、債務者から起訴命令を求める申立がなされたときは、裁判所は、承継人にたいして起訴命令を発すべきものである。これを要するに、被保全権利の承継によつて、仮処分債権者たる地位も当然承継されるのであつて、これを手続面に顕現するものが執行文の付与であると解すべきである。申立人は、右のように解すると、承継前既に仮処分の執行によつて債務者の蒙つた損害につき担保を失うというのであるが、この場合当初の仮処分の担保がこれをも担保することは勿論、承継執行文付与後においては、前主は承継人のために担保を供与した関係に立つものと解すべきであるから、右のような懸念は無用であるのみならず、このことは仮差押についても同様であつて、前示民事訴訟法の規定を仮処分に準用する妨げとはならない。右の通りであるから、起訴命令の前後を問わず、承継人が、承継執行文によつて執行を承継した後本訴を提起した以上、もはや本訴提起命令不遵守による仮処分取消はできないことは当然であり、承継人が起訴命令所定期間内に本案訴訟を提起しないときは、承継人を被申立人として仮処分取消の申立をすべきであつて、当初の仮処分債権者を被申立人とすべきでない。

これを本件について考えてみると本件仮処分決定が発せられて後訴外会社が被申立人から本件特許権を譲受け、その登録を完了したが、仮処分につき承継執行文の付与を受ける以前に、当裁判所が被申立人にたいして起訴命令を発し、この命令所定期間の末日たる昭和二十六年九月十日右訴外会社が申立人を被告として、当裁判所に特許権侵害行為禁止等請求の訴を提起し、ついで本件仮処分につき承継執行文の付与を受け、同年十月五日その執行を承継したのであるから、本件仮処分の本案訴訟は同訴外会社によつて既に提起されているといわねばならない。

申立人は、本件仮処分は、昭和二十五年十二月二十七日当裁判所において、当裁判所昭和二十五年(ヲ)第一九〇号特別事情による仮処分取消申立事件として、これを取消す旨の判決があり、この判決は確定したものであるから、その後訴外会社にたいして承継執行文を付与すべきでないと主張するけれども、特別事情ありという理由で仮処分決定を取消す旨の判決がなされても、それは無条件に仮処分自体を不当とするものではなく、(この点仮処分決定自体を不当とする異議および事情変更による取消と異る)特別事情の存在と、債務者の保証供託との結合によつて、はじめて、仮処分決定の存続を不当とするに過ぎないものであるのみならず、債権者は、この場合債務者の立てた保証の上に被保全権利のため、担保権をもつことになるのであるから、債務者による該取消判決所定の保証の供託の有無を問わず、右の判決のあつたことは、承継人に承継執行文を付与することの妨げとはならない。

よつて、被申立人を相手方として起訴期間の徒過を理由に本件仮処分の取消を求める申立人の本件申立は、既に本訴の提起があつたことからしても、また相手方を異にしている点からいつても失当であるから、これを棄却し、申立費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を適用して主文の通り判決する。

(裁判官 浜本一夫 鈴木敏夫 下出義明)

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